毎日のように、新しい人と出会う。そんな仕事を始めてから久しい。これが自分の日常であるため、もう感覚的には慣れた。一方、よく考えてみると、不思議な仕事だなあと思うときもある。
ちなみに僕の日常では、「人を探している」という連絡がある。もちろん、迷子を捜しているので館内放送をかけてくれという両親からの依頼ではない。まして東京に家出した息子を探して欲しいという捜索願いでもない。僕に「人探し」を依頼してくるのは、企業の社長や人事部長であって、探して欲しいといっても探す相手の名前はわかっていない。外見の特徴もわからないし、警察犬に洋服の一部の臭いを嗅がせて追跡できるわけでもない。
困ったことに、探し主は色々と難しい注文をつける。「リーダーシップがあり、問題解決ができる人で、英語を使って仕事ができる人。最低5年はマネジメント経験があったほうがいいし、年齢は40歳くらいまで。年収は○○○○万円くらいが望ましく、半導体製造装置販売の経験がある人。転職回数が多い人はパス。面接は来週、アジア地区のディレクターが来るので、今週中に探して欲しい。」
そんな依頼があった直後は、出来れば大手町や赤坂あたりのオフィス街の街頭に立って、このまま文字通り、拡声器を使って街を歩く人たちに問いかけたくなる。「そんな人いませんか?」って。
まあそんなことは現実的でないとすると、館内放送もなく、まして警察犬も使えない僕としては、この「人探し」、とりあえずいったんはお手上げとしたい誘惑に駆られる。「僕が探さなくてもいいじゃない」、そんな感じである。
しかしそうもいかないのが現実なのだ。ぼくの二人の子供たちは、父親の稼ぎに頼っているのだ。まるで巣の中で食事を運んでくる親鳥を待ちながら、ピチクパーチク、口を尖らして鳴いている小鳥達のように、子供たちは僕が「人探し」をすることを望んでいる。そう、子供たちに文房具を買ってやるために、父としては、自分が警察犬のように嗅覚、そして人間様特有の知力を使って、猛烈に「人探し」に走るしかない。「人探し」を生業(なりわい)としてしまった以上、雨の日も雪の日も犯人を追いかける刑事のごとく、僕らはまだ顔も見えぬ人を求めて日々奔走するしかないのだ。
基本的にやることは刑事と同じ。まずは犯人像を考える。そしてターゲットを絞る。そして聞き込みをはじめる。犯人が隠れていそうな場所(僕らが探している人は隠れているわけではないが)で検問をする。ようは網を張って人がかかってくるのを待つ。犯行の疑いがある容疑者には徹底的に会って調べる。別の事件の犯人に偶然出会うこともある。(ちなみに僕らが探している人は犯罪者ではない。言葉のあやである、失礼。)一方、僕らに情報をくれる情報屋さんもいる。その情報に基づいて、ガサ入れみたいなこともする。
「人探し」の仕事に共通するのは、「イマジネーション」を膨らませることの大切さ。そして粘り。探す人は、どのあたりに生息している人か、どんな特徴を持っている人か、具体的なプロファイリングをして、イメージを3,4パターン持つことである。コツは、探し主が言ったことをすべて鵜呑みにしないことである。たとえば、「英語で面接を受けることができる程度の英語力を持ち、45歳くらいまでで、外資の製造業で営業管理職としての実績がある人」、こんなくらいに大きく網を張るのである。
刑事と決定的に違うのは、僕らは探し主に対して、いわば「疑わしい犯人」を仕立て上げ、何人もの人を「この人じゃないか」と送り込むことだ。よって、刑事の仕事でたとえるとそろそろ無理が出てくる。
ようは犯人探しではない。最終的には、実は相思相愛になるパートナー探しなのだ。ここからは、結婚相談所の世界に近づいてくる。最初は「高学歴で、185cm以上で、速見もこみち風のルックスで、頭も良くて、年収は最低でも1000万円以上、腹筋がしまった肩幅の広い人、35歳以下で、長男は嫌、センスのいい趣味を持っていて、もちろんやさしくて誠実な人で私だけを愛してくれる人」なんていう要望が出るもの。
最終的には「誠実そうな39歳、身長は172cmくらい、ちょっとメタボのきらいはあるがデブじゃない、長男だけど親はまだ元気で同居の話はでていない、年収は700万、中堅商社に勤める課長補佐、地方の国立大学を卒業し、昔の風間トオル風のルックスで元サーファー」という人に落ち着いたりする。
ちなみにこれは妥協ではない。これから二人の関係が始まるときに、大切なのは世間体でもなければ、ルックスだけでもない、その人物のやる気しだいである。そして最初は一方的に高い理想を掲げていたとしても、結局はお互いにお似合いなカップルができる。
企業の採用も、原則は同じ。
どんなに理想を並べたところで、最終的に採用が成功か失敗か、それは適材適所であるか、本人のモチベーションが高いかどうかにかかっている。採用してみなければわからないのだ。そして夫婦も同じ。一緒に生活してみなければ、相手のことなんかまったくわからないものだ。
人探しという仕事。なかなか奥が深くて面白い。